頭外定位音源
- Post by
- tomo
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- 2006-09-23 22:26:00+09:00
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巷でholophonicsが再評価の風潮があるとか。 5.1chサラウンドが家庭用にも普及しそうでしない昨今、ヴァーチャル・サラウンドとかドルビーヘッドフォンとかいった頭部伝達関数畳込音響技術が普及してきた流れでストレートにbinaural再評価→holophonics凄い!ということなんだろうか。
Holophonicsはアルゼンチン生まれの神経生理学者Hugo Zuccarelli氏が長くイタリアで研究した後に開発したというシステムで、Ringoと名づけられたHATSと、何等かの処理をしているブラックボックスとで構成された生録用システムとなっている。 Zuccarelli氏は「耳自ら発するリファレンス・トーンとの干渉を記録し、脳と直接コミュニケートしている」とかいったコメントを残す他はその技術を秘匿している。
Holophonicsがそれまでのbinaural録音モノと大きく違ったのは、上下感と距離感がかなり明瞭になったことと聴感ダイナミックレンジの拡張だと思われるが、その後日本でholophonics音源を独占販売のと同八幡書店の音源シリーズとしてリリースされた小久保 隆氏のcyberphonicでも同様の効果が確認でき、しかもそちらは前後の分離感まで向上していた。 このcyberphonicもまた、holophonics同様、生体の何等かの信号との「干渉」をキーワードとして提示した他は原理の詳細は伏せられている。 また、後にCorneliusの『Fantasma』でも使われた藤原マイクでお馴染みのシステムがあり、これは頭部前方にも耳のついたHATSを使ったりするのだが…。 端的に言ってキモいと思う。
で、この藤原氏のシステムはneural soundもしくはneuro wave recording systemと称しており、「脳の中枢に直接刺激を与え」ていると云う。 やはり脳の感覚処理プロセスを取り込んだという話になっているのだ。 元々、音と振動をテーマに創作活動を続けていた藤原氏だが、当初は手でぐるぐる回して音と振動を楽しむといったローテクオブジェを創作していた氏がどうして聴覚生理学的なシステムの開発に至ったのか。 実は氏がneuro wave recording systemを開発したのは、1976年から13年間イタリアで過ごした直後の事なのだ。 Zuccarelli氏がholophonicsを研究していたのもイタリア。 これは偶然なんだろうか。
他方、spherical soundという別の方式も一時期存在した。 これはやはりHATSをベースにしたシステムで、やはり「聴覚器官で生じる干渉をシミュレート」という触込みになっていて音も確かにholophonicsに類似していたが、Zuccarelli氏がなんとこれを告発する騒動があったのだ。 Spherical soundの開発者はZuccarelli氏の元助手で、その技術を盗用していると主張したのだ。 程なくしてspherical soundは姿を消し、日本では数枚のCDとパックス・コーポレーションのCM音声を残した。
という訳で、binauralに似て非なる、何かと「神経」とか「干渉」とか「脳とコンタクト」などがキーワードになる不思議な録音システムは、八幡書店、イタリア滞在、博士と助手の関係といった按配でどうしてもZuccarelli氏を想起させてしまう、そんな不思議な世の中なのだった。